テントの加水分解を防ぐ保管方法。ベタつきは査定に響く

テントの加水分解を防ぐ保管方法

「今年はもうキャンプに行かないし、片付けは来週でいいか」

10月も下旬になると、最後のキャンプから帰った夜にそう思い、収納袋に押し込んだテントを車に積んだままにしてしまう方は少なくありません。疲れて帰った日に、リビングいっぱいにテントを広げる気力が残っていないのは私も同じです。

どうも、荒木岳です。スポーツ用品店で10年働き、キャンプ売り場では毎年春になると「久しぶりに出したらベタベタで」とテントを抱えてくるお客さんの相談に乗ってきました。収納袋を開けた瞬間に、酸っぱいような独特のにおいが立ちのぼる。あのにおいを嗅ぐたびに、半年前の片付けの様子が目に浮かんだものです。

テントのベタつきの多くは「加水分解」と呼ばれる劣化で、一度起きると元には戻りません。ただし進み方は保管で大きく変わり、その分かれ目になるのが、いまの時期の片付けと冬の置き場所です。この記事では、加水分解の仕組みと、メーカーが案内している予防の手順、初期症状の見分け方、そして手放すときに査定でどう見られるかまでお話しします。

ベタつきの正体は、裏側のコーティングが分解したもの

テントの生地は、ナイロンやポリエステルの布だけで雨を防いでいるわけではありません。表と裏にそれぞれ別の加工が施されていて、ベタつくのは裏側のほうです。

表の撥水と、裏の防水は役目が違う

VASTLANDはテント・タープのお手入れ・保管方法の中で、生地の表面には水を弾く「撥水加工」、裏面には水を通さない「防水加工」が施されていて、二つが合わさって初めて耐水効果が出ると説明しています。ポリエステルやナイロンのテントで、この防水加工によく使われているのがポリウレタン(PU)のコーティングです。

表の撥水は汚れや油分で弱まり、水滴が玉にならず広がるようになりますが、汚れを落とし、当て布をして低温のアイロンを当てれば戻る余地があります。厄介なのは裏のPUコーティングで、湿気を吸って分解が進むと、同じページにあるとおり防水加工面が白くなったりベタベタになったりし、自分で直すのは難しくなります。ちなみにTC(コットン混紡)やコットン素材の幕は加水分解の心配がない代わりに、カビの影響を受けやすい素材だと同ページは書いています。

濡らさなくても進み、熱と摩擦で早まる

加水分解という名前のとおり、原因は水です。ただ、雨に濡れたテントだけの話ではありません。DOD(ビーズ株式会社)のサポートページ「テントの生地がベタベタになるのはなぜですか?」は、加水分解を経年劣化の現象としたうえで、水濡れがなくても空気中の水分で進行し、摩擦や熱が加わると症状が悪化すると書いています。

一度も雨に当てていないテントでも、湿気のこもる場所で何年も眠っていればベタつくということです。メーカーの案内を突き合わせると、劣化を早める条件は次のように整理できます。

劣化を早める条件よくある場面
水分雨や朝露で濡れたまま収納袋へ。結露した底面を乾かさずに畳む
汚れと洗剤の残り泥を付けたまま保管する。洗ったあとに洗剤をすすぎ切れていない
熱夏の車内や、日の当たる屋外物置に置きっぱなし
紫外線乾かすつもりで、日なたに長時間干したまま
摩擦地面で引きずって撤収する。収納袋に力ずくで押し込む

モンベルのテント・タープのお手入れ方法も、コーティングは経年で劣化するものとしつつ、汚れや水分が付いたまま長期間保管すると劣化の進行を早めると明記しています。時間による劣化は誰にも止められないので、それ以外の条件をひとつずつ外していくのが保管の考え方です。

シーズンオフの片付けで、ベタつくかどうかが決まる

ここからは、最後のキャンプから帰ったあとの手順です。

乾かす。帰った日に広げ、干すのは日陰

撤収の朝に晴れていても、テントは朝露や結露で湿っています。VASTLANDのページでは、地面に接していたグランドシートやインナーテントのフロアは乾きにくいので裏返して底面を乾かすこと、自在ロープや織テープ、生地が重なった部分は特に乾きにくいことが挙げられています。売り場で見てきたベタつきも、フロアの裏や折り目の重なりから始まっているものが目立ちました。

雨の撤収になったら、帰ったその日のうちに収納袋から出してください。ベランダでも室内でも、広げて風を通すだけで違います。天日でカラッと乾かしたくなりますが、モンベルは日光の当たる屋外に長期間干したままにすると、紫外線でコーティングの強度が著しく低下するとしています。干すのは日陰で、乾いたらすぐ取り込む。これが基本です。

汚れを落とす。洗剤と水分を残さない

泥や砂は、乾いたあとに柔らかいブラシや固く絞った布で落とします。部分的に洗剤を使うなら、すすぎは念入りに。モンベルは洗剤が残るとその成分が水を引き寄せ、はっ水性と耐水性の低下につながるとしていますし、DODも中性洗剤や水分の拭き残しを劣化の原因に挙げ、シンナーやベンジンなどの有機溶剤は使わないよう求めています。汚れを落とすつもりで、水分を呼び込む成分を残してしまっては本末転倒なんですよ。

畳む。小石を払い、空気の逃げ道をつくる

畳み方にもメーカーの指定があります。モンベルの案内では、本体は入口のジッパーを少し開けて空気の抜け道をつくりながら畳み、小石や小枝を取り除きながら巻いていきます。巻き込んだゴミが生地やコーティングを傷め、漏水の原因になるからです。フライシートやタープは、コーティング面が内側になるように畳みます。

撤収のときにテントを地面で引きずらないことも、DODが予防策として挙げている点です。畳む作業をブルーシートやグランドシートの上で済ませれば、フロア裏のこすれはかなり減ります。

しまう。車の中と屋外物置は避ける

保管場所について、モンベルは「車の中や屋外物置など高温多湿になる場所はさけ、温度が上がらず風通しのよいところ」を選ぶよう案内しています。キャンプ道具一式を車に積みっぱなしにしている方や、庭の物置にまとめて放り込んでいる方は、テントだけでも家の中へ移してください。

片付けの最後に、次の点を確かめておくと安心です。

  • フロアの裏と、生地が重なる部分まで乾いているか
  • 泥や砂、洗剤が残っていないか
  • 収納袋に小石や枯れ葉が入っていないか
  • ポールやペグの水分を拭き取ったか
  • しまう場所が、夏に熱のこもる場所になっていないか

冬のあいだは、詰め込まずに半年に一度広げる

付属の収納袋は持ち運ぶための袋で、撤収のたびに膝で押し込むくらいの大きさしかないこともよくあります。モンベルは乾燥剤入りの保管袋を使う場合でも、ふんわりと余裕を持たせて入れ、隙間なく詰め込んだり圧縮したりしないよう注意しています。長期間使わないときは、半年に一度ほど晴れた日に広げて湿気を飛ばし、状態を確かめることも勧めています。

どうしても屋外の物置やガレージに置くなら、VASTLANDが案内しているように、コンテナボックスに乾燥剤や除湿剤を一緒に入れ、換気して高温多湿にならないようにします。

我が家の物置も、キャンプ道具とゴルフクラブと釣具でパンパンになって妻に叱られた過去があります。いまは年に一度の棚卸しのついでに、テントだけは物置から出して、家の中のクローゼットの下段に置くようにしました。点検は春のシーズン前と、この10月の片付けのときの年2回で、広げるついでにフロアの裏を指でなぞるのが習慣になっています。

加水分解の初期症状を見分ける

加水分解には、ベタベタになる前の前触れがあります。売り場で数えきれないほどのテントを見てきましたが、最初に気づけるサインはだいたい決まっていました。広げたら、次の順番で確かめてください。

  • 収納袋を開けたとき、酸っぱいような独特のにおいがしないか
  • フロアの裏やフライの内側を指でなぞって、しっとりした感触やぬめりがないか
  • 畳んでいた生地同士が、はがすときにペタッと貼りつかないか
  • コーティング面に白っぽい粉やまだら模様、細かなはがれが出ていないか
  • 縫い目を覆うシームテープの端が浮いていないか

上の二つは、まだ見た目に出ていない段階でも分かるサインです。この時点で乾燥と保管を見直せば、進み方を遅らせられます。

紛らわしいのが、表側の撥水の衰えです。雨の日に水滴が玉にならず生地にじわっと広がっても、それは表の撥水が弱っただけで、裏の防水はまだ生きていることがあります。VASTLANDも、この状態は「水が沁みている」と誤解しやすいと書いています。触ってベタつくのは裏、水が広がるのは表と、場所で見分ければ迷いません。

シームテープは縫い目からの浸水を防ぐテープで、はがれると水漏れの原因になります。端が少し浮いただけなら、当て布をして低温のアイロンで貼り直せる場合もありますが、全体に浮いてきたら、生地のコーティングごと寿命が近いサインと受け取ってください。

起きてしまったら、直すより使い道を決める

ベタつきが出てしまった場合、メーカーに頼めば元に戻るかというと、期待はできません。ogawa(キャンパルジャパン)はQ&Aの「修理可能でしょうか」で、穴あきやポールの曲がり、ファスナーは可能な範囲で修理するとしながら、生地が劣化しているものは修理対応を承れない場合があると書いています。破れは縫えても、分解したコーティングは縫い直せないわけです。

ネットでは、重曹でベタついたコーティングを落として塗り直す方法も紹介されています。ただVASTLANDは、生地を傷めたり後戻りできなくなったりするためおすすめできないとし、専門のクリーニング店への相談を勧めています。完全に元通りにはならなくても、ベタつきを軽くできる余地はあるそうです。

私が勧めているのは、症状の出た場所で使い道を分けることです。フライだけが軽くベタつく程度なら、晴れの日専用と割り切って使い切る手もあります。フロアまで進んで防水が怪しいなら、雨の夜に家族を寝かせるテントとしてはもう頼れません。手放すか迷うなら、自己流で手を加える前に一度査定に出し、値が付くかどうかを確かめてから決めても遅くありません。

査定ではここを見られる

買取の現場でテントを見るとき、最初に確かめるのは生地の状態です。ブランドや人気モデルの話はその後で、ベタつきやにおいがあれば、どんな人気のテントでも評価は一段下がります。中古市場全体の動きはキャンプブームが落ち着いた今、中古アウトドア市場はどうなった?で書いたので、ここでは状態の見られ方に絞ります。

チェックされる点査定での扱い出す前にできること
コーティングのベタつき防水性能の問題として、買取不可や大幅な減額になりやすい隠さず申告する。自己流の剥離や塗り直しはしない
におい加水分解臭やカビ臭、焚き火やたばこのにおいは減額の対象日陰で広げて風を通しておく
カビ点在なら減額、広範囲なら値が付かないことが多い薄めた中性洗剤を含ませ固く絞った布で拭き、よく乾かす
シームテープの浮き防水性の判断材料として細かく見られる浮いている箇所を把握しておく
付属品ポール、ペグ、ロープ、収納袋の欠品は減額一式そろえてまとめて出す

査定する側が一番困るのは、症状を伏せたまま持ち込まれるテントです。ベタつきは広げればすぐに分かりますし、申告がなければ他の部分まで疑ってかかることになります。気になる症状は最初に伝えてください。そのほうが査定は早く、話もこじれません。

加水分解が出ていないテントは、状態の良さがそのまま評価になります。乾燥と保管に気を配ってきた幕は生地にハリがあり、においもありません。中古で買う側が一番知りたいのはそこなので、いずれ手放すつもりがあるなら、ベタつきが出る前の段階でスポーツ・アウトドア用品の扱いに慣れた買取店の査定を一度受けておくと、手持ちの幕の現在地が分かります。

まとめ

  • テントのベタつきは、裏側のPUコーティングが分解する「加水分解」によるもの
  • 加水分解は濡らさなくても空気中の水分で進み、熱や摩擦で早まる
  • 一度起きると元に戻らず、メーカー修理でも生地の劣化は対応できない場合がある
  • 予防の柱は、帰った日の乾燥、汚れと洗剤を残さないこと、車内と屋外物置を避けること
  • 収納袋に詰め込まず、半年に一度は広げて状態を確かめる
  • 査定ではベタつき、におい、カビ、シームテープ、付属品を見られる

今年最後のキャンプから帰ったら、晴れた週末にテントを一度広げてください。フロアの裏を指でなぞり、においを確かめ、乾いたのを見届けてから畳む。収納袋には詰め込まず、家の中の涼しい場所へ。春に袋を開けたとき、あの酸っぱいにおいがしなければ、この冬の片付けは成功です。