「あのとき張り切って揃えたテント、今さら売っても二束三文だろうな」
押し入れの奥に押し込んだギアケースを見るたび、そう思って蓋を閉じている方は多いはずです。ブームが去った以上、みんなが道具を手放していて、中古はダブついているに違いない。そう考えるのは自然な発想でしょう。
しかし、数字はまったく逆を向いています。環境省の推計によれば、スポーツ・レジャー用品の中古市場はキャンプブーム最盛期の2021年にいったん縮み、ブームが落ち着いた2024年に回復しました。押し入れのテントが値打ちを失ったどころか、いま買い手が増えているのがブーム後の中古市場です。
どうも、荒木岳です。スポーツ用品店で10年間、キャンプ売り場に立ってきました。ブーム真っ盛りの頃は入荷したテントが翌日には消え、いまは「使わなくなったので」と持ち込まれる相談を受ける側になっています。売る人と買う人、両方の顔を見てきた立場から書きます。
この記事では、ブーム後のアウトドア市場と中古市場が実際にどう動いたのかを公的なデータで確認し、そのうえで、値が付く道具と付かない道具の分かれ目、いま手放すときの手順まで整理します。読み終えるころには、押し入れのギアを「処分するもの」ではなく「いくらで、どこへ出すか」で考えられるようになります。
目次
ブームは沈静化した。それでも市場は縮んでいない
まず、ブームが終わったという実感そのものは正しいことを確認しておきます。
矢野経済研究所が2025年12月に発表したアウトドア用品・施設・レンタル市場に関する調査は、副題からして「キャンプブームは沈静化も、アウトドアアパレルの拡大が市場をけん引」です。コロナ禍の行動制限が明けてレジャーの選択肢が戻り、新規参入層や一回限りのキャンプ体験層が減った、と同社は分析しています。売り場の肌感覚と一致します。
ところが市場規模そのものは伸びています。2024年度の国内アウトドア用品・施設・レンタル市場は前年度比5.2%増の4,634億2,000万円、2025年度は同9.2%増の5,059億5,000万円を見込む、というのが同調査の推計です。テントや焚き火台といったアウトドア用具は販売が停滞した一方で、アウトドアウエアやシューズが日常着として定着し、市場全体を押し上げました。
つまり、消えたのは「キャンプ用具を大量に新品で買う人の波」であって、アウトドアという遊び自体ではありません。
減ったのは「一度試して終わった人」
現場の変化を、もう少し細かく見てみます。
日本オートキャンプ協会が2026年9月1日に発行したオートキャンプ白書2026によると、2025年の全国のオートキャンプ場は1,757か所に増え、施設が増えたにもかかわらず稼働率は16.3%を維持しています。さらに、ビギナーキャンパーが5年ぶりに増加し、夫婦やカップルで楽しむデュオキャンプが広がった年でもありました。キャンピングカーの保有台数は、初めて「100人に1台」の水準に達しています。
ブームのピークに比べれば、週末のキャンプ場は確かに予約が取りやすくなりました。それでも施設は増え、新しく始める人も戻ってきている。抜けたのは、道具を一式揃えて一度か二度使い、そのまま押し入れに戻した層です。その人たちの道具が、いまどこへ向かっているか。ここから本題です。
中古市場はブームの最中に縮み、ブームのあとに戻った
環境省が2025年6月に公表した令和6年度リユース市場規模調査報告書には、消費者が中古品を買った金額をもとにした品目別の推計が載っています。キャンプ用品を含むスポーツ・レジャー用品の推移が、この記事の問いへの答えです。
| 推計年 | スポーツ・レジャー用品の市場規模 | 前回調査からの増減 |
|---|---|---|
| 2012年 | 558億円 | – |
| 2015年 | 547億円 | 2.0%減 |
| 2018年 | 608億円 | 11.1%増 |
| 2021年 | 512億円 | 15.7%減 |
| 2024年 | 561億円 | 9.5%増 |
キャンプブームが最も盛り上がっていた2021年に15.7%も縮み、ブームが沈静化した2024年に9.5%戻しています。直感と逆の動きですが、理由を分けて考えると腑に落ちます。
なぜ最盛期に縮んで、いま戻ったのか
ブームの最中、道具は市場に出てきませんでした。買った人はこれから使うつもりですし、新品の人気モデルは品薄で、そもそも定価で買えるなら中古を探す必要がありません。売り場でも「入荷待ち」の札ばかり掛けていた時期です。中古に回る玉がなければ、中古市場は太りようがない。
そして今、供給と需要が同時に増えました。使わなくなった道具を手放す人が出てきたことで良質なギアが市場に流れ、一方で「ブームが落ち着いたから、そろそろ自分のペースで始めたい」という買い手が、新品より安い中古を選んでいます。オートキャンプ白書がとらえた5年ぶりのビギナー増加は、この買い手側の動きと重なります。
中古が安く叩かれる相場は、売り手ばかりが増えて買い手がいない市場に起きるものです。いまのアウトドア用品は、その状態ではありません。
もう少し引いて眺めると、これはキャンプだけに起きた現象ではありません。同じ報告書では、国内のリユース市場全体が2024年に3兆4,986億円と推計され、金額の大きい自動車とバイクを除いた規模でも1兆2,813億円、2021年から3.9%伸びています。中古で買うことへの抵抗感が薄れ、道具の一生に「次の使い手」という選択肢が当たり前に入るようになりました。アウトドア用品の回復も、その大きな流れの一部です。
売買の主戦場はフリマアプリ、店頭はその半分
同じ環境省の報告書は、2024年のスポーツ・レジャー用品561億円を、どこで買われたかで分解しています。
| 購入先 | 金額 |
|---|---|
| フリマアプリ | 215億円 |
| インターネットオークション | 165億円 |
| リユースショップ・中古販売店の店頭 | 111億円 |
| インターネットショッピングサイト | 53億円 |
| その他 | 17億円 |
個人間の取引が4割近くを占め、店頭はその半分程度にとどまります。ここから読み取れるのは、「相場を調べるならフリマアプリの取引実績が最も参考になる」ということです。売る前に、自分の型番で検索して、売り切れになった価格をいくつか見てください。それが今のリアルな相場です。
この報告書には、見落とされがちな指摘がもうひとつあります。中古品の購入は全体としては若い世代ほど活発なのですが、スポーツ・レジャー用品は世代による差が小さい品目として名指しされている点です。買い手は20代の初心者だけではありません。定年後に始める人も、子どもが独立して道具を小さくしたい人も、同じ市場を探しています。押し入れのファミリーテントに買い手がいないという心配は、まず当たりません。
ただし、フリマアプリが常に得とは限りません。2ルームテントや大型クーラーボックスのような重量物は、送料と梱包の手間が利益をごっそり削ります。私も一度、送料と資材で3,000円以上使い、手取りが思ったより減って懲りました。大型ギアと点数の多いセットは、出張や宅配の買取に任せたほうが、手取りでも時間でも報われます。
ブーム後の市場で値が付く道具、付かない道具
中古市場が元気だからといって、押し入れの道具がすべて高く売れるわけではありません。査定額は、ブランドと状態でほぼ決まります。
値持ちを決めるのは、ブランドと定価の絶対額
査定額は「定価の何割」で動くので、そもそもの定価が高い道具ほど手元に残る金額も大きくなります。国内外の人気ブランドのテントやシュラフが数万円で取引される一方、量販店のセット品が数千円で終わるのは、値落ち率ではなく元の価格差が効いているためです。
加えて、廃番になった人気モデルや、生産終了した色は、新品で手に入らないぶん指名買いが入ります。売り場時代、廃番のランタンを「これを探していた」と即決で買っていったお客さんを何人も見送りました。押し入れの道具が古いことは、必ずしも不利ではありません。
逆に値が付きにくいのは、ブーム期に大量に出回った低価格帯のセット品です。同じ形のテントが中古市場に何百と並んでいれば、状態の良し悪しより価格の安さで選ばれてしまいます。私の実感でも、あの頃に飛ぶように売れたモデルほど、いまは中古在庫が積み上がっている印象です。手放す順番を付けるなら、買ったときに高かったものと、いま新品では買えないものから査定に出してください。
直せる劣化と、直せない劣化
状態の減額は、洗って直る汚れと、素材が変質してしまった劣化とで扱いがまったく違います。長く保管していた道具ほど、後者が起きています。
- 泥汚れ、砂、すすの付着は、洗浄で落ちれば評価に響きにくい
- 生地のカビは、点在なら減額、広範囲や臭いが残るものは買取不可になりやすい
- テント底面やマットのベタつき(加水分解)は、素材そのものの劣化なので戻せない
- シームテープの剥がれや粉吹きは、防水性能の判断に直結する
- ポールの曲がり、ペグの欠品、収納袋やロープの紛失は、まとまった減額になる
査定を待つ間にできることは限られていますが、ひとつだけ効くのが乾燥です。撤収時に湿ったまましまった道具は、押し入れの中でカビと加水分解が進みます。売ると決めた日にまず晴れた日を選んで陰干しし、フライシートと底面を乾かしてから梱包してください。この一手間だけで、査定の見え方が変わります。
なお、この見分け方は中古で買う側にもそのまま使えます。テントやシュラフのように当たり外れが大きい道具は、加水分解やシームテープの状態を写真と説明で確認できる出品か、検品したうえで保証を付ける専門店で選ぶ。ペグ、テーブル、チェア、焚き火台のような構造が単純な道具は、多少の傷を気にしなければ中古で十分に働きます。安く始めたい人ほど、この線引きが効きます。
いま手放すなら、この順番で動く
最後に、実際の手順を整理します。
売り時は春から初夏
キャンプ用品の需要は、シーズンインの前に立ち上がります。買取店が在庫を仕込みたいのは3月から6月ごろで、この時期の査定は強気になりやすい。逆に、真冬に持ち込まれた夏物のテントは、店側が半年寝かせる前提で値を付けます。年内に処分したいという事情がなければ、春を待つのが合理的です。
燃焼器具とガス缶だけは別扱い
バーナーやランタンなどの燃焼器具は、中古市場で人気の高いジャンルですが、扱いには注意が必要です。NITEが公表したアウトドア調理時のNG行動に関する注意喚起によれば、ガストーチやカートリッジガスこんろなどのガス製品事故は、2017年度から2022年度の間に172件通知されています。多くは漏れたガスへの引火と、過熱されたガスカートリッジの破裂です。
売る側として押さえておくことは3点です。使用済み・未使用を問わずガス缶は買取対象外が基本なので、本体と分けて自治体のルールに従って処分すること。本体は接続部の劣化や汚れを落として出すこと。そして、点火不良や炎が安定しない個体は、症状を隠さず申告することです。
まとめて出して、付属品を揃える
買取店は1回の査定にかかる手間で採算を見ているので、テント1張りだけより、テーブル、チェア、寝袋、調理器具をまとめて出したほうが総額は伸びやすくなります。あわせて、収納袋、ペグ、ロープ、説明書、購入時の箱を探しておいてください。欠品の減額は、想像以上に大きい。押し入れを一度全部出す日を作るのが、結局いちばん早い方法です。
まとめ
キャンプブームが落ち着いた今、中古アウトドア市場に何が起きたのか。要点を振り返ります。
- アウトドア市場全体は縮小しておらず、2025年度は5,059億5,000万円を見込む
- 減ったのは一度試して終わった層で、キャンプ場もビギナーも増えている
- スポーツ・レジャー用品の中古市場はブーム最盛期の2021年に15.7%縮み、2024年に9.5%回復した
- 手放す人と安く始めたい人が同時に増えたことが、回復の中身である
- 取引の中心はフリマアプリだが、大型ギアと点数の多いセットは買取のほうが手取りが残る
- 査定を分けるのはブランドと状態で、加水分解とカビは戻せない
押し入れの道具は、置いておくかぎり価値が増えることはありません。乾かして、付属品を揃えて、春までに一度査定に出してみてください。買い手がいる今のうちに動けば、次の道具や別の趣味の軍資金になります。物置で朽ちさせるより、次の使い手に渡すほうが、道具にとってもよほど幸せなはずです。